やまだのお部屋

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ありふれた生活

今日はお写真はありません。ぺこり

自分の住んでいる市の図書館は、少し離れているし駐車場が少なくて
とても狭いです。
そのため、ほとんど利用していません。
福島に住んでいたころは、毎週のようにたくさん利用していました。
広域利用ができるということで、隣接する市の図書館にさっそく
日曜日に行ってきました。

そもそもなぜ図書館に行ったかというと、どうしても読みたいエッセーが
あったからです。
朝日新聞に掲載されているエッセーです。
たぶん、ご存知の方も多いのではないでしょうか。




わが家の最長寿猫である、おしまんべ(通称おっしー)がこの世を去った。
十九歳の誕生日の四日前だった。
 妻が結婚する前から飼っていた猫だった。
容態が悪化した時、妻は仕事で京都にいた。
戻ってくるのは数週間先。
彼女が旅立つ時、帰って来るまでは決して死なせはしない、と僕は約束した。
 一切の食事を取らなくなったおっしー。
毎日病院に連れて行き、点滴をしてもらう。
先生の話では、腎機能はかなり低下しているが、病気ではないという。
身体全体が衰弱している。いわゆる老衰。
つまりもう治ることはにないのだ。
 おっしーは日に日に弱っていった。
動くこともなくなり、一日中クッションの上でじっとしている。
まるで、静かに「その時」を待っているかのようだった。
 三月の末、撮影の合間に妻が一日だけ帰宅することになった。
今、新幹線に乗ったと連絡を受けた直後、おっしーの様子に変化が起こった。
 気付いたら、いつもの場所にいない。
家中探しても見つからない。
猫は死期が近付くと姿を消すという。
いよいよその時が来たのか。
押し入れの襖が十センチほど開いていたので、恐る恐る覗いてみると、
畳んだ布団の隙間でおっしーは寝ていた。
 既に旅立ちの準備は整えた、安らかな表情だった。
出来れば妻に看取らせてやりたかった。
ぐったりしたおっしーを抱き上げ「もうちょっとだけ頑張ってくれ」と
声を掛けた。
おっしーは腕の中で(今逝くとこだったのに)とでも言いたげに、
迷惑そうに僕を見た。
彼にしてみれば、ゆっくり一人で死にたかったのかもしれない。
 それがいいことか悪いことか分からなかったが、僕はおっしーを抱いて
赤ん坊のようにあやした。
今度眠ったら終わりだと思った。
頼む、おっしー、あと少しだけ生きてくれ。
あやしながら涙がこぼれた。
わが家の他の動物たちも心配して集まって来た。
家中に緊張した空気が立ち込めた。
これはよくない。
なんとかおっしーに迫る「死の影」を追い払わなければ。
 空気を変えようとテレビをつけた。
バラエティ番組の底抜けの明るさは、さすがにこの状況にはそぐわかなった。
何かDVDを見ようと思った。
こんな緊迫したシチュエーションに、もっとも相応しい映画は何か。
真剣に悩んだ末、「トムとジェリー」を選ぶ。
アニメのコメディは、もっとも「死」のイメージから遠いし、何も考えずに
楽しめるので僕にとっても気分転換になる。
なにより主人公は猫である。
 それから三時間あまり。
僕は瀕死のおっしーを抱えて「トムとジェリー」をぼぅっと眺めた。
眠りかけるおっしーに声をかけ、ひたすら励ました。
やがて妻が帰宅。
なんとか生き延びたおっしーを、僕は妻に引き渡した。
 おっしーは、妻の姿を見て安心したのか、そのまま彼女の腕の中で
息を引き取った、と言いたいところだが、そこは現実の不思議さ。
妻に会えた嬉しさのせいか、僕が長時間あやしたせいか、おっしーは完全に
息を吹き返した。
結局彼はそれから一週間生き続ける(続く)。


4/16(金) 朝日新聞に掲載
三谷幸喜さんの 「ありふれた生活」 502

おっしーを抱いて・・・







わが家の十八歳の猫おっしーがいよいよ危篤状態に陥った時、
仕事で京都へ行っていた妻が一旦、帰って来た。
ほとんど意識がなかったおっしーは、もう駄目だと思っていた
僕らの予想を裏切り、妻の顔を見ると奇跡的に一時回復した。
 おっしーは妻が結婚する前から飼っていた猫。
つまり僕よりも二人の付き合いは長い。
妻は朝になれば再び京都へ戻る。
次に帰って来るのは半月後。
妻とおっしーが一緒に寝られるのは、この夜が最後だろう。
 既に体力がほとんど残っていなかったおっしーは、自分で布団に
潜り込むことは出来ない。
妻はやせ細ったおっしーを抱いて、そっとベッドに入った。
朝になったら妻の腕の中でおっしーが冷たくなっていることを、
僕はそっと望んでいた。
最愛の人の腕の中で世を去る。
おっしーにとってそれが一番幸せな最期であるのは間違いないのだから。
 実は少しだけ淋しかった。
おっしーが一切の食事を取らなくなってから、僕は一人で彼を看病した。
寝ながら胃液を吐くので、その度に拭いてやらねばならず、深夜も
つきっきりだった。
 どこか自分の中で、妻の猫とというイメージがぬぐい切れなかったおっしー。
それがこの数週間で、ようやく本当の家族になれたような気がした。
僕はほとんどの仕事を中断し、おっしーと二十四時間向かい合った。
(関係者の皆さん、ごめんなさい。)
僕らは濃密な時間を過ごした。
それだけに彼が最期の時を妻の腕の中で迎えようとしている時、
僕は軽く嫉妬してしまったのだ。
もちろんそれが一番幸せな形であることは分かっていたが。
 結局、その夜もおっしーは持ちこたえた。
しぶとい猫だった。
翌朝、妻は再び旅立って行った。
これが永久の別れになるのは間違いなく、彼女の気持ちを思うと
胸が締め付けられた。
 その日の夜のことだ。
専用ソファーでおっしーが眠りについたのを確認し、僕は仮眠を
取るために自分のベッドに横になった。
うとうとしていると、突然耳元で囁くような鳴き声。
目を開けるとそこにおっしーがいた。
ほとんど歩けなかったはずのおっしー。
彼はおそらく最後の力を振り絞って、自力で僕のベッドまで
這い上がって来たのだ。
それは彼の精いっぱいの感謝の気持ちに思えた。
涙が溢れた。
 おっしーは当たり前のように腕の中に潜り込んで来た。
そしてかつて毎晩そうしていたように、僕の股間に移動して眠り始めた。
瀕死の猫を股ぐらに挟むという、かなり緊張感溢れる状況下で、
僕は全身に幸せを感じていた。
身動きがとれない中、天井を見上げながら泣いた。
最期の場所として選んでくれたおっしーの粋な計らいに、心の底から
感謝した。
 朝になり、そっと掛け布団をめくってみる。
おっしーは、きょとんとした表情でこっちを見ていた。
とことんしぶとい猫だった。
 それから三日間、彼は生き続けた。
そして僕が他の動物たちの晩御飯を用意しているわずかの間に、
彼は眠るように息を引き取った。



4/23(金) 同掲載 503

最期に見せた「奇跡」









あることでこの記事の存在を知り、全文キチンと読んでみたかったんです。
だけどわが家の購読は現在読○新聞。
一ヶ月前の記事を読むにはどうしたらいいかな、と思い、図書館に
行ったというわけです^^

それまで私は、三谷さんの作品を読んだことがありませんでした。
でも、このエッセーを読んでファンになりました。
そして、このエッセーは単行本にもなっていたので、図書館で
2時間読んできました^^

図書館も新しくてキレイだったし、快適で心が温かくなった時間を
過ごしてきました。







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6 Comments

ミココ  

爆笑

もうねおっし~すごすぎる!
今度こそ
って思っちゃってしんみりしちゃうんだけど
すごい!!
奥さんのにゃんこだったんだけど
ここまで愛してくれると何かこっちがうれしくなりますね

2010/05/20 (Thu) 06:29 | REPLY |   

みぃ  

ああ、羨ましいなぁ・・・・・・。
理想です、こんな感じって・・・・。

小林聡美さんは、実生活でも猫が好きなんですねぇ。

変だな、うち、朝日新聞なのに、読んだ覚えがない。
もしかして関西版だと違うのかもしれないです。
いや、4月ってあんまり新聞読んでなかったかも・・・・・・<最近もか

私も、三谷さんの本は、古畑任三郎しか読んだ事ないです(^^;

2010/05/20 (Thu) 09:26 | EDIT | REPLY |   

イヌ  

やっぱり猫が好きなんですね。
読んで、クマコの時を思い出しました。

ナオミちゃんの体調が悪かったのですね。
心配です。
気持ちよさそうな寝顔なので大丈夫かな?

遅ればせながらリンクさせて下さい。

2010/05/30 (Sun) 18:12 | EDIT | REPLY |   

やまだのママ  

★ミココさんへ★
その後お身体等壊されていませんか?
お返事が大分遅くなってしまいましてゴメンナサイ。ぺこり

おっしー、ホントすごい猫さんでしたね^^
思わず図書館で単行本を探し、おっしーが出てくるところを
全部読んできちゃったくらいです。笑
作家さんだからうまいのはわかるんですが、それだけでなくこう・・・
心にジ~ンとくるものがありますよね。

2010/06/05 (Sat) 18:28 | REPLY |   

やまだのママ  

★みぃさんへ★
ずっと放置しっぱなしでスミマセンでした。ぺこり

ホント理想ですよね~
ベッドで眼を開けたらそばにおっしーがいたというところ、
図書館で立ちながらサラッと一度読んだとき、
思わず涙が出てきて困りました。苦笑
急いでコピーして、椅子に座り落ち着いてもう一度読んで
良い話だなぁ~とつくづく思いました^^

関東と関西版では違うのかもしれませんね。
でも、この記事、夕刊に載っていたような気がします。

三谷さんの本はこれをきっかけに少し読んでみたいなぁと思いました^^

2010/06/05 (Sat) 18:32 | REPLY |   

やまだのママ  

★イヌさんへ★
お返事大変遅くなりました~ゴメンナサイ。ぺこり

クマ子ちゃんのこと思い出させちゃいましたね。
でも、そうして思い出しているときって、きっとそばにいるんでしょうね^^

ナオミのこと、ご心配おかけしました。
今はとりあえず大きな症状もなく、元気です。
このままでいてくれたらいいなぁと祈る毎日です。

こちらこそリンクの件、お願いします。
ありがとうございました^^

2010/06/05 (Sat) 18:34 | REPLY |   

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